No.16 2001年
能「江口」について

あらすじ:
諸国一見の僧が天王寺参詣の途中、摂津の国江口の里にきた。ここは昔船着場として栄え、多くの遊女のいた所である。かつて西行法師がここで一夜の宿を求めたが断られ「世の中を厭ふまでこそかたからめ、仮の宿りを惜しむ君かな」(私のように出家するのは難しいけれど、一夜の宿を供にしてくれてもよさそうなものなのに)と、詠んだことを思い出して口にする。そこへ里の女が現れ決して断ったのではなく出家の身を案じて「世を厭ふ人とし聞けば仮の宿に、心留むなと思ふばかりぞ」(出家の身なら、このような宿で一夜を過ごすことなどお考えなさいますな)と、返歌し僧を諌めたのですと話し、自分はそのときの江口の君の幽霊だと言って消えていく。(中入)
僧が今の幽霊を弔おうとしていると、月の澄み渡った川に舟遊びの歌が聞こえ、舟に乗った遊女たちが、川を下ってきた。江口の君は、自分たちの境遇を嘆き、この世の無常を語り、舞を舞う。(序之舞)
やがて江口の君の姿は、普賢菩薩と変り舟は白い象となって、白い雲に乗り西の空へと消えていく。
場所:摂津国江口(現在の大阪府東淀川区)
瀬戸内海から京都へ向かう淀川の水上交通の拠点となった箇所。富裕な港町として栄え、遊女たちが集まった。
登場人物:
里女・江口ノ君(シテ)
旅僧(ワキ)
江口ノ遊女(ツレ)
従僧(ワキヅレ)
里人(間狂言)
季節:9月
作者:観阿弥が作った作品を世阿弥が手直ししたとされている。
出典:新古今和歌集など
テーマ:
現世は仮の宿という観念に基づいた曲で、遊女という女性だからこそ悟った人生観がもっとも崇高であり、普賢菩薩になって極楽浄土へ行けるという宗教観が垣間見られる。
特徴:
後半の場面で、舟の作り物が出る。この舟は、屋根尽きの舟で屋形船を表している。能には舟がよく登場するが、実際に舟を出さずに表される能(隅田川)、船を出す能(唐船、船弁慶など)がある。この江口の舟は、上に宮を建て屋形船を表し、当時の舟遊びの豪華な屋形船を想像される。
鑑賞のポイント:
3番目物(幽玄をテーマにした女性・草木の精・天人を主役にした曲)の特徴的なものから宗教的なところへと変化していく。遊女から普賢菩薩となる点をどのように表現していくか?舟は途中で消え、もちろん最後の白い象に乗って消えていく点は、観客のイメージの中でということになる。
序之舞:ゆっくりと静かな舞。女性や老人草木の精などが舞う。
装束など:
前シテ:里女   面→若女
         装束→唐織
後シテ:江口ノ君 面→若女または僧
         装束→唐織
装束について一口メモ:
前シテと後シテには唐織の装束を用いますが、前シテは、着流し(着物のように着ることをいいます。)後シテは、坪折というつけ方で、今回は大坪の着方で、形状は唐織なのですが、襟を折って止め、今回は大口(襟の大きいようなもの)のウエストのあたりで入れ込み、裾が開く形で短くつけます。

お能を知りたい人のためのQ&A

久々に皆様の素朴な疑問にお答えいたします。
OGATAMA編集局


Q: 能を見に行きたいと思いますが、情報を得る方法がわかりません。
A: いくつか方法があります。
  (1)各能楽堂に問合せをする。
  (2)チケットぴぁを利用する。
  (3)ホームページなどを参照する
Q: いざ能を見に行こうとしましたが、あいにく日程が合いません。なぜ1回公演なのでしょうか。 A: 能の公演はたいてい1回公演です。なぜなら観客を含め一期一会の精神を大切にしたいからです。まれに一日2回公演及び数日間公演をすることがあります。
Q: 能は何となく始まって、何となく終わったという感じでしたが、始まりと終わりはどのようになっているのでしょうか。 A: 始まりは「お調べ」というのが聞こえてくると、これから始まりますという合図です。開演前のベルのようなものです。
この「お調べ」は幕の中でお囃子方が、それぞれの楽器、笛・小鼓・大鼓・太鼓(曲によっては無い)の調子を確認しながら演奏します。オーケストラのチューニングのようなものです。
終わりは舞台に人がいなくなったときが終わりです。
Q: 紋付袴姿で、途中から舞台に登場し、出たり入ったりいなくなってしまったりどういう役回りの人なのですか。 A: 舞台の後方に二人ないし三人座っている人は、後見です。後見はシテの装束をつけたり、小道具などの出し入れや、シテが何らかの理由で舞台を続けられなくなった時に交代してそのまま舞台を続けます。
またシテが、幕に入るときには幕内で迎えています。したがって出たり入ったりしていることが多いのです。
Q: 中央に屋根のついた舞台があり、向かって左側に橋のようなものがついています。どうしてこのような形の舞台になったのでしょうか。 A: 能は昔屋外で行っていたことから屋根がついていました。そのまま屋内に入り今のような形となりました。また左側についている橋のようなものは、橋掛かりといいます。このような形になるまでは、舞台の真中についていたり、右側に付いていたこともあります。
Q: 橋掛かりの長さに意味があるのでしょうか。 A: 幕がついている橋掛かりから出てきて、時間の経過や、距離の長さなどを表現するのに用いています。因みに一足30年という考え方もあるようです。
Q: シテ・ツレ・ワキはどのような意味で、役割分担されているのでしょうか。 A: シテは主役・ツレはシテに連れられてきたりするからツレ、ワキは脇役だからです。
Q: 能楽師の方々は、何歳くらいで初舞台をなさるのですか。 A: 能楽師の家庭に生まれると、だいたい3歳くらいで初舞台を踏みます。それ以外の方はいろいろあります。
Q: 毎日どのくらい練習なさるのですか。ピアニストやバレリーナは、毎日8時間の練習をすると聞いたことがあります。 A: 謡などを覚えるには、声を出して覚えるまでします。公演が近づくと頭の中で常にイメージしています。気になったところがあれば、その場で時間を取って納得いくまですることもあります。特に毎日何時間というような区切り方はしません。
Q: 平均的な1週間の予定や、公私共にどのようなスケジュールで過ごされているのでしょうか。1ヶ月はどうですか。とても興味があります。 A: 梅若靖記のある先月9月の一週間は、日曜日定式能、月曜日新作能の公演。火曜日は自宅にてお弟子さんの稽古、水曜日は東京梅若会「鉄輪」申合、木曜日は二子玉川にてお弟子さんの稽古の後土浦にて薪能公演(当日雨のため屋内になったそうです。)。
金曜日は大阪梅若会神戸公演の申合せにて、神戸へ移動その後大阪のお弟子さんの稽古。土曜日は、大阪梅若会神戸公演。
季節が良いと公演等が多くなります。従って大変忙しく、年の瀬まで休みはほとんどありません。たまに1日空いたとしても、次の曲の覚えものをしたり、下準備に追われてゆっくり休める日はありません。
Q: 楽譜や台本はあるのでしょうか。 A: 西洋の音符が書いてあるような形ではありませんが、楽譜はきちんとあります。
また、謡本がいわゆる台本にあたります。動きについては、型付けといって手書きで書かれたものが各家に伝承されています。
謡本は、販売しておりますが、型付けについては販売されることはありません。

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